電子書籍部ログ

  • 小道具としての本─(2) (2014.08.13)

    3LDKの各部屋はもちろんじゅうぶん広く,天井も高め。
    リビングには大きなサッシがあり,そこから奥行きをたっぷりとったバルコニーに出ることができる。
    バルコニーとはいえ,広さからすると部屋といってもいい。
    流しの付いた蛇口や電源のコンセントも備えている。
    子どもがいたら夏はここにビニールプールを置いて水浴びなんてこともアリだ。
    近接するほかのバルコニーに洗濯物がなければバーベキューだってできる。

    間取りだけを再現したのではなく,家具も入れてあった。
    家具付きというわけではない。
    あくまでも一例として「こんなふうにお住まいいただけますよ。いい感じでしょう」というアピールだ。
    バルコニーには人工芝を敷き詰め,そこで食事を楽しむことを想定しておしゃれなテーブルといすが置かれていた。
    リビングは上品なソファーやキャビネットをはじめ,照明や置物,カーテンに至るまで,コーディネーターが隅々までしっかり仕事をしたことが見て取れる。
    すきがない。

    「いやー,こんなの見せられたら,ここでの生活を想像して契約してしまうのもわかりますよ」
    と言ってみると,
    「こちらのコーディーネートが気に入られるお客様も多いですよ。ご希望があれば契約後に,ご相談に応じることも可能です」
    となかなか誇らしげな答えだった。

    するとなおさら気になってきた。

    部屋の角にアンティーク調の木製の小ぶりな飾り棚があった。
    天板は平らで,その上に一冊本が載っていた。
    しっかりした造りの古い洋書で,英語の本だ。
    革装の表紙の年を経た感じが,アンティークな飾り棚とも合っている。

    だが,洒落なのかそれとも「事故」なのか,これは?

    聞かずにはいられなかった。

    「やっぱりここまでの価格だと,購入されるのはお医者さんとかが多いというような想定なんですかね」
    「特にそういったことはありませんが,なぜですか」
    「いや,ここに『性病について』っていう本が置いてあるもんで」
    「ん★〇Д△Φッ」

    ...事故だったようだ。


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  • 小道具としての本─(1) (2014.08.05)

    本は情報を伝える媒体のひとつだが,知的な雰囲気を手軽に作り出す小道具として重宝もされている。
    使われるのはもっぱら紙の本で,なかなか電子書籍では代替できない。

    雑誌などで,取材を受けた専門家の写真が,自分のオフィスや研究室の書棚をバックに撮られていることは非常に多い。

    またテレビのニュース解説番組で,セットの一部として分厚い本が並べられている場合もある。

    ただ手軽に扱いすぎて,失敗することもないわけではない。


    少し前のことだが,近所にマンションが新たに建つことになった。
    大手のデベロッパーが手掛けたわりと大きな,いわゆる高級マンションというやつだ。

    物件完成に先んじて,モデルルームが近くにできた。
    むろん買うことなどできないのだが,こんな機会でもなければ高級マンションを見ることもないだろうと,家内と冷やかしに行くことにした。
    行けばいつでも見せてくれるわけではなく,見に行く日時を予約しなければならない。

    予約した時間に行くと,ほかに数組が待っていた。
    各組に担当者がつき,丁寧に物件の説明・案内をしてくれるというシステムだ。
    わりと若い女性がうちの担当だった。

    まずは建物の完成模型を前に,概要を説明してくれた。

    この駅の近くにこれだけの土地を確保するのは至難の業で,今後こうした物件がほかにもできるとは考えにくい。
    したがってきわめて希少性が高く,資産価値としてもあまり値崩れはしないであろう。
    駅に近い分,外の音がうるさいこともあるが,二重サッシなどで防音はしっかりしているから生活には全く問題がない。
    高層階を希望するなら,そもそも外の音を気にする必要もない。
    つくりが大きい分,基礎もがっちりしたものになる。
    工法も含め地震対策は万全だ。
    資材も厳選しているので,シックハウス症候群などの心配は皆無。
    モデルルームを開設して間もないが,次々と成約しており,早期での完売が見込まれる。
    ...云々。

    「このモデルルームの仕事でしばらくこの町に通ってきていますけど,歴史を感じさせる風情はあるし,おいしい店も多くて,いいところですよね」
    などと言うので,こちらも,
    「あそこの店に行ったんだ,じゃあこっちも行ってみるといいですよ」
    と,地元情報を提供したり,ひとしきり雑談もしてずいぶんと打ち解けた感じになった。

    ではお部屋のほうへ,と案内された。

    ─続く


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